阪神・淡路大震災で失われたモノ、残されたモノ、生まれたモノ…そんな記憶を記録します。

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東日本大震災応急仮設住宅

  • ほとんどの情報は確定値ではなく、日々更新され発表されています。最新の正確なデータは、各出典元の機関・リンク先で確認下さい。
被災地で最大の仮設団地「石巻トゥモロービジネスタウン仮設住宅(通称:開成団地)」第1〜14団地まであり、約1100世帯が暮らしている。(宮城県石巻市・開成
被災地で最大の仮設団地「石巻トゥモロービジネスタウン仮設住宅(通称:開成団地)」
14団地に約1100世帯が暮らしている。(宮城県石巻市・開成 2012年4月10日) [クリックで拡大]
  • 応急仮設住宅 必要戸数
  • 応急仮設住宅 着工済戸数
  • 応急仮設住宅 完成戸数
  • 仮設住宅団地数
  • みなし仮設入居数
  • ツーバイフォー建築住宅
  • 生活家電セット設置
  • 62,640戸(民間賃貸住宅借上げ 2012/10/17)[109] [詳]
  • 2,057戸、49団地、17施工社(10/1)[k2]
  • 11万672世帯(9/28 仮設団地,みなし仮設含む)[k1] [詳]

解説

小泉中学校グラウンド仮設住宅(宮城県気仙沼市・本吉町地区
小泉中学校グラウンド仮設住宅
(宮城県気仙沼市・本吉町地区 2011年7月4日) Photo:SVA気仙沼事務所 [クリックで拡大]
清水地区応急仮設住宅
清水地区応急仮設住宅 [第5次発注,94戸/第8次発注,50戸]
(宮城県女川町・女川浜 2011年12月3日) [クリックで拡大]
大谷中学校グラウンド仮設住宅(宮城県気仙沼市・本吉町地区
大谷中学校グラウンド仮設住宅
(宮城県気仙沼市・本吉町地区 2011年5月26日) Photo:SVA気仙沼事務所 [クリックで拡大]
陸前高田市高田町長砂仮設団地(岩手県陸前高田市・岩手県立高田高等学校第2グラウンド
陸前高田市高田町長砂仮設団地
(岩手県陸前高田市・岩手県立高田高等学校第2グラウンド 2011年7月17日) [クリックで拡大]
広田町大久保仮設(広田小学校)(岩手県陸前高田市
広田町大久保仮設(陸前高田市立広田小学校校庭)。浄化槽、受水槽も設置
(岩手県陸前高田市 2011年7月17日) [クリックで拡大]
向陽町住宅地区応急仮設住宅
向陽町住宅地区応急仮設住宅
(宮城県石巻市・蛇田地区 2011年7月21日) [クリックで拡大]

    応急仮設住宅

応急仮設住宅とは

応急仮設住宅とは、災害のために住家を失った被災者のうち住宅を確保するまでの間、一時的に居住の安定を図るための簡単な住宅のこと。大きく災害救助法(第二十三条 一 収容施設〈応急仮設住宅を含む。〉の供与)に基づき自治体が建てるものと、個人一般が建てる自力仮設住宅に分けられる(自力仮設住宅についてはこの項では触れない)。

また自治体が準備する仮設住宅には、プレハブや木造による簡易建築物による住宅と、市営住宅や公務員住宅、UR賃貸住宅などの公営住宅の空き家を提供する「公営住宅等一時入居」がある。またこの震災ではこれまでほとんど前例のなかった民間賃貸住宅への家賃補助、県が民間賃貸住宅を借り上げ提供する「民間賃貸住宅借り上げ」(通称:みなし仮設)も、災害救助法の仮設住宅と同様の扱いの下で大幅に認められた。

#以下本項で主に扱うのは、プレハブ簡易建築物による応急仮設住宅。

仮設住宅必要戸数

国土交通省が2011年4月19日に集計したところによると、各県の発注戸数の合計は72,290戸だった。

宮城県は沿岸部の仮設住宅建設用地の不足を受け、2階建ても認める方針を固めた。これはまでは、安全性や遮音性から許可していなかったという(2011年5月8日 毎日新聞)。

国土交通省が仮設住宅の必要戸数を各県から再集計したところ、岩手、宮城、福島の東北3県で当初の7万2千戸から減り、5万2,200戸と発表した(2011年5月19日 共同通信)。

  • 応急仮設住宅着工・完成状況 

  • 岩手県 : 13,984戸、319地区(全戸完成)
  • 宮城県 : 22,095戸、406地区(全戸完成)
  • 福島県 : 16,695戸、180地区
  • 茨城県 : 10戸、2地区(全戸完成)
  • 栃木県 : 20戸、1地区(全戸完成)
  • 千葉県 : 230戸、3地区(全戸完成)
  • 長野県 : 55戸、2地区(全戸完成)
  • 合  計 : 52,129戸、897地区

#国土交通省,応急仮設住宅着工・完成状況,2012年5月1日[k4]

    自治体による独自発注

今回の震災では、基本である県責任による仮設住宅建設発注だけではなく、各被災自治体や被災地周辺の自治体による独自の動きも見られた。仮設住宅建設計画をしたそれぞれの自治体が建設用地を確保し、独自に設計や建築の発注を行った(岩手県遠野市、住田町、宮城県女川町、南三陸町、山元町など)。

内陸部に位置する岩手県遠野市や住田町は被災地ではないが、市町内に独自に仮設住宅を建設し、沿岸部の住民を受け入れた。住田町は町内の木材や業者を用いて、独自の木造仮設住宅を建設している。

木造仮設住宅群: 3.11からはじまったある建築の記録
はりゅうウッドスタジオ 日本大学工学部建築学科浦部研究室 五十嵐太郎 阿部 直人 安藤 邦廣 浦辺 智義 三瓶 一壽 滑田 崇志 難波 和彦 芳賀沼 整 辺見 美津男
ポット出版
日本初、坂茂氏による3階建て多層コンテナ仮設住宅
運動公園野球場応急仮設住宅
運動公園野球場応急仮設住宅
[女川町発注分,第15次発注,189戸,多層コンテナ仮設住宅,坂茂建築設計+VAN]
(宮城県女川町・女川町総合運動公園内野球場 2011年12月3日) [クリックで拡大]

宮城県女川町は沿岸部の被災地域以外に平地が少ないために仮設住宅建設用地が不足した。そのために隣接する石巻市内にも建設するなどしていた。必要全戸建設に時間が掛かったため、同町は自衛隊などの救援部隊の基地となっていた高台の運動公園内敷地を用地に当てることし、町独自に建設を発注した。

設計は、これまでにも阪神・淡路大震災をはじめとした国内外の災害被災地で実績のある坂茂建築設計(+ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN))に依頼。日本で初めてとなる海外輸送に用いるコンテナを積層させた2、3階建ての仮設住宅が建設された。

Voluntary Architects' Network──建築をつくる。人をつくる。
坂 茂 慶應義塾大学坂茂研究室
北山恒 ブラッド・ピット
INAX出版

    福祉関連

障害者用グループホーム型福祉仮設住宅
障害者用グループホーム型福祉仮設住宅
(宮城県石巻市・駅前北通り3丁目地区 2012年2月24日) [クリックで拡大]
高齢者向けグループホーム型福祉仮設住宅
高齢者向けグループホーム型福祉仮設住宅
(宮城県石巻市・中里7丁目公園 2012年4月10日) [クリックで拡大]
石巻市北上公園グループホーム
石巻市北上公園グループホーム
(宮城県石巻市・中里3丁目 2012年4月10日) [クリックで拡大]

    応急仮設住宅の建設用地

宮城県亘理町内の様子(宮城県亘理町 2011年4月12日)
旧舘仮設住宅の建設予定地 (宮城県亘理町 2011年4月12日)
建設用地選定

津波被災地の岩手、宮城県の三陸沿岸は、平地が少なくなかなかまとまった広さの建設用地が確保できなかった。

ただ平地であれば良いというわけではなく、津波で浸水被害を受けていない安全な場所であることが大前提である。さらには電気、上下水道といったライフラインや道路が整っていることや、大規模な造成が必要でないこと、すぐに着工できることや最低入居期間の2年以上借りられること、無償であることなどの様々な条件が求められる。

土地使用の権利関係も、確保しやすい公有地(公園、学校、スポーツ施設、工業団地用地など)が優先であるが、場所によっては国有地や民有地も選ばれたという(2011/04/21 讀賣新聞)。そうした条件も重なったこともあり、今回の震災で建設された仮設住宅の特徴として、高台にある学校の校庭や、津波浸水地域でも比較的危険性が低いと判断した地域にも建設されたという点が挙げられる。

これなら住みたい 仮設住宅16プラン
マザープロジェクト 桑原あきら 編著
書肆侃侃房

    応急仮設住宅の供給/建設

宮城県亘理町内の様子(宮城県亘理町 2011年4月14日)
亘理町中央工業団地仮設住宅。持ち運ばれた建築資材
海から数キロ離れた場所であるが津波が到達し一面が数十センチほど浸水した。
盛り土で整地された上に建設された。
目の前がショッピングセンターで生活環境は抜群。(宮城県亘理町 2011年4月14日)
宮城県亘理町内の様子(宮城県亘理町 2011年4月14日)
亘理町中央工業団地仮設住宅 - セキスイハイム社製 (宮城県亘理町 2011年4月14日)
岩手・陸前高田 仮設住宅の建設進む(3月24日) - 産経新聞チャンネル

    一時入居/民間賃貸住宅借り上げ(みなし仮設)

応急仮設住宅には、プレハブの仮建築以外にも、既存の市営住宅や公務員住宅、UR賃貸住宅など(今回はJR東日本やNTT東日本提供の社宅等も含まれる)の公営住宅の空き家を提供する「公営住宅等一時入居」がある。

またこの震災ではこれまでほとんど前例のなかった、県が民間賃貸住宅を借り上げて家賃補助という形で提供する「民間賃貸住宅借り上げ」(通称:みなし仮設)も、災害救助法の仮設住宅と同様の扱いの下で大幅に認められた。

  • 民間賃貸住宅の借上げ入居戸数 

  • 全国:62,717戸
  • 岩手県:3,985戸
  • 宮城県:24,751戸
  • 福島県:23,886戸

#東日本大震災復興対策本部 2011年11月9日

  • 公営住宅等の借上げ入居戸数 

  • 公営住宅等:8,691戸
  • UR賃貸住宅:964戸
  • 合計:9,655戸

#被災者向け公営住宅等情報センター 2012年5月7日

#公営住宅等:公営住宅、改良住宅、高齢者向け公共賃貸住宅及び特定公共賃貸住宅、公社住宅、単費住宅等

みなし仮設のメリット ○

利点としては、一時入居や借り上げ住宅の場合はプレハブの仮建築に比べ準備期間が短く済み、敷金礼金などを合わせても2年間の期限で限定した場合はコストが低く抑えられ、居住性についても問題がないことなどがある。

職場が都市部にあり、従前でも地域コミュニティとのつながりが薄く身軽な若い世帯や単身世帯などは、借り上げ住宅の住環境が適している。

みなし仮設のデメリット ×「見えない仮設」に

今回の被災地である三陸地方や仙台平野沿岸の農漁村部はもともと空き家が少なく、それどころか民間賃貸住宅がほとんどない(存在しない、または被災している等)という場所が多い。内陸部の借り上げ住宅は住環境的にいくら整っていても、農漁村部などのように職場が地域と密接に関係した地域コミュニティの場合は、簡単には移動できない事情もある。

宮城県第二の都市である石巻市の場合も、中心市街地は以前から民間賃貸住宅が少なかった上、浸水して被災した地域も広大なために意外と物件はない。そこに被災者のみなし仮設や復興関連の工事関係者が入居したため、数少ない民間賃貸住宅を巡り地元の大学に通う学生にもその影響がおよんでいるという(2012/02/19 河北新報)[k7]

仙台市でもみなし仮設や復興関連の工事関係者需用の影響で、世帯向け向けの住宅は見つけにくい状況が続いているという。その影響は一般企業に及び、人事異動の規模や時期の変更を余儀なくされているという(2012/2/19 河北新報)[k8]

また、そこには「県外避難者」で生じるのと同様に「被災者」の存在が地域から埋没したり、従前の地域コミュニティが分断されてしまう等の課題が挙げられている。行政はボランティアなどの支援者に対して「個人情報保護」を名目に、みなし仮設住宅の居住者情報を一切開示しないため、避難者が自ら名乗り出ない限りは「被災者」であるということすらもわからない。そのためにみなし仮設住民は、ボランティアなど民間による外部支援を受動的には受けられず、総体的には一般の仮設住宅に比べても支援の手が薄くなり、結果、地域からも孤立することになる。

長期的には特に被災地外(県外避難者)のみなし仮設入居者は、被災者支援の網から漏れてしまうという同様の過去の事例(阪神・淡路大震災、三宅島噴火災害)が多く報告されており、負の側面も存在することの教訓が多く残されたことは、当初から当然分かっていたことだった。それにもかかわらずみなし仮設を伝えるマスメディアの報道では、こうしたデメリットの存在はほとんど伝えられることはなかった [阪神・淡路大震災 県外被災者]

みなし仮設支援

みなし仮設入居者の多い仙台市では、仙台市社会福祉協議会のみなし仮設支援事業として、2011年12月より市民センター等を利用した「地域支えあいセンター事業」を開始した。

被災者支援情報や地域情報を集めた情報コーナーの設置や巡回相談所の開設、交流イベントの開催などを行っている。

  • 関連記事・民間賃貸住宅需要

  • [2011/06/08]「みなし仮設」の民間賃貸足りない 家賃つり上げる例も - 朝日新聞
  • [2012/02/19]賃貸住宅の不足深刻 借り上げ仮設などで需要増 宮城 - 河北新報[k8]
  • [2012/02/19]狭まる選択 学生も受難 賃貸住宅、都市部も激減 - 河北新報宮城版[k7]

    応急仮設住宅の入居決定方法(公募方法)

蛇田中央公園応急仮設住宅
蛇田中央公園応急仮設住宅
(宮城県石巻市・蛇田地区 2011年7月21日) [クリックで拡大]
入居決定方法

入居決定方法は、各自治体(県・市町村)によって異なる。

入居決定方法・要援護者優先抽選方式(岩手県大槌町)

岩手県大槌町は、町長をはじめ町役場の中枢部が揃って亡くなり行政自体の機能が麻痺してしまった。沿岸部の平地が被災したため、仮設住宅はわずかに残った山間部の狭い平地に広く分散して建設された。その際の仮設住宅入居決定方法では、要援護者世帯を優先しての入居申請が行われた。

その結果、公共交通機関も途絶えた町内では、自力での移動手段のない高齢の町民を中心として従前のコミュニティが分断されてしまった。この入居時の問題が、時間が経つにつれ顕著化しているという。

この要援護者世帯を優先させる入居枠の優先世帯とは、仙台市を例に取ると、以下のいずれかの方がいる世帯となっている。

  • 高齢者(75歳以上)のみ世帯
  • 障害者(身障1・2級、療育A、 精神1・2級)、要介護3以上

#「第二次 応急仮設住宅等の入居申込みについて」仙台市 2011年5月9日

この「要援護者を優先する」抽選方法は一見、要援護者に配慮した施策のようにも思える。しかしこれは1995年の阪神・淡路大震災の際の仮設住宅入居時に実施され、後に多くの問題を生み出した失策であった。この要援護者優先入居によって、自治体や地域は数年間に渡って「地域コミュニティの分断」のみならず孤独死などの多くの問題を抱えることとなり、多くの教訓を残していった [仮設住宅入居決定方法]

過去の失策による教訓が残されているが……

高齢者や障害者のケアホームのように配慮された福祉仮設住宅ではない、一般向けの仮設住宅入居で優先枠設定を設けることは、そのまま要援護者という「弱者だけの団地」を生み出す結果となることを意味する。神戸ではこの入居時の失策により、多くの仮設住宅孤独死者を生み出す結果となった [仮設住宅孤独死者]

この教訓を基にして、2004年新潟県中越大震災や2007年能登半島地震、2007年新潟県中越沖地震では、要援護者の優先抽選方式ではなく、従前の地区ごとの入居が配慮されていた。

阪神・淡路大震災を経験した神戸市は、当時の要援護者優先について後にまとめた記録誌の中で、次のように記している。

この要援護者優先は、当時の状況からすればやむ得ない措置とも考えられるが、結果としては、当初募集の仮設住宅団地は「要援護者の団地」となり、団地内のコミュニティづくりや見守り活動に大きな問題を残すことにもなった。(p54)

#阪神・淡路大震災—神戸の生活再建・5年の記録 - 神戸市、2000年

こうしたことも踏まえ、阪神以後に日本赤十字社が作成している『応急仮設住宅の設置に関するガイドライン』の中でも、入居者の募集や入居者の選定の実施にあたって、次の点を留意するように示している。

【入居者の募集】(p43)
○応急仮設住宅の入居者募集計画の作成にあたっては、被災者の生活圏や地域コミュニティを考慮するとともに、特定の年齢階層に偏ることのないよう、入居者層のバランスに留意する。
【入居者の選定】(p43)
○応急仮設住宅の入居者の選定にあたっては、個々の被災世帯の必要度に応じて決定されるべきであるため、抽選等により行わないようにする。ただし、入居の順番または希望する応急仮設住宅への割り当て等については必ずしもこの限りではない。
○高齢者、障害者等を優先すべきであるが、孤立や災害関連死の防止、地域コミュニティへの復帰支援についても考慮し、特定の年齢階層に偏ることのないよう留意する。
○地域コミュニティを維持することも必要であり、単一世帯ごとではなく、コミュニティ単位での入居方法も検討することが重要である。

#日本赤十字社『応急仮設住宅の設置に関するガイドライン』[k6]

阪神・淡路大震災以来、神戸で調査・研究・政策提言を行っている民間シンクタンク「兵庫県震災復興研究センター」も、東日本大震災発災後に掲出した「第1次提言」の中で、入居方法について触れている。

応急仮設住宅の入居にあたっては、機械的な抽選によるのではなく、被災者が地域ごとにまとまって住み、互いに励まし合い、復興の相談などができるように配慮すること。

#兵庫県震災復興研究センター 2011年3月22日[k3]

また厚生労働省は、4月15日に発出した通知、「東日本大震災に係る応急仮設住宅について」の中で、入居決定についても留意する点を示し、周知・要請を行った。

応急仮設住宅への入居決定は、高齢者・障害者の個々の世帯の必要度に応じて決定すべきであることから、機械的な抽選等により行わないこと。従前のコミュニティを維持することも必要であり、単一世帯毎ではなく、従前地区での数世帯単位での入居方法も検討すること。また、入居決定に当たっては、応急仮設住宅での生活が長期化することも想定し、高齢者・障害者等が集中しないよう配慮すること。(p54)

#厚生労働省社会・援護局総務課 2011年4月15日[k4]

こうした過去の教訓があり、行政や研究機関の論文や報告書でも多くの指摘や反省が行われ、提言や通知も提示されていたにも関わらず、それらは活かされることなく、今回の被災自治体のほとんどがこの「要援護者優先方式」を採用してしまった。これを指摘するメディアは、今のところほとんど見受けられない。

なぜ従前のコミュニティを意識する施策ができなかったのか。専門誌の取材で「仮設住宅に求められるのは、早く大量に造ることのほか、阪神・淡路大震災の教訓として地域住民のつながりを絶たない配慮ということが指摘されています」と訊かれた奥山恵美子仙台市長は、入居方法には触れず一般的なコミュニティ論としてこう述べている。

被災された方々が「一日でも早く入りたい」「住んでいた所を離れたくない」と言われるので、小さな公園でも使って建てることになる。そこでは集会所や花壇は犠牲にせざる得ない。建築の先生方が「小さな家でもこう造ったり、こう配置したら良くなる」とおっしゃることと、折り合いがつかない部分はありますね。(p206)

#『覆る建築の常識』日経BP,2011年

入居決定方法・従前コミュニティ方式(岩手県宮古市)

岩手県宮古市では、仮設住宅の入居の決定に際しては抽選を行わず、従前の地域コミュニティに配慮した割り振りを行った。

抽選は行わず、入居後に少しでも安心して生活を送れるよう、また、高齢者や身体障がい者などに偏りが生じないように、従前にお住まいだった地区ごとに集約する方法で、市が調整し決定していますので、ご理解願います。(p2)

#『広報みやこ特別号5』岩手県宮古市,2011年5月13日

入居決定:仙台方式・コミュニティー申込み

宮城県仙台市では、2011年4月11日から開始した仮設住宅等入居申込の第一次募集の際、地域コミュニティ維持を目的として、原則として単独世帯ではなく集団単位で入居する「コミュニティー申込み」という仙台独自の方式を採用した。

第一次募集では、入居申請は10世帯以上のグループとしていたが、結果的にはプレハブ仮設の申込が3グループ69世帯(公営住宅などは6グループ)にとどまった。そのため第二次募集からは5世帯以上のグループと要件を緩和し、第三次募集からはグループ要件そのものがなくなった。

しかしながらその第三次募集時の要件では、ただの抽選ではなく「要援護者を優先した」抽選方法となっていた。

  • 入居決定の方法(仙台市) 

  • 新規プレハブ仮設住宅については、被災前のご近所などが応急仮設住宅等に入居した後も、まとまって暮らし、お互いに助け合うことができるよう、5世帯以上がグループを作ってお申込みいただくコミュニティによる申込みを原則とします。
  • ただし、総戸数60戸以上のプレハブ仮設住宅については、1割程度の優先世帯のための入居枠を設け、優先世帯の方に限って世帯単独申込みも可能とします。
  • コミュニティ申込みについて(仙台市) 

  • 抽選を行い、入居グループを決定します。
  • 抽選にあたっては、物件の近隣にお住まいだった方々のグループを優先します。
  • 入居決定した戸数の合計が、物件の総戸数に達するまで抽選を行います。
  • 抽選で2位以下となったグループで、物件の空き状況により、グループの一部の世帯だけが入居できる場合がありますが、その場合、どの世帯が入居するかは、グループ内で決定していただくことになります。

#以上、「第二次 応急仮設住宅等の入居申込みについて」仙台市 2011年5月9日

    仮設住宅団地管理

国府多賀城駅南地区応急仮設住宅(宮城県多賀城市
国府多賀城駅南地区応急仮設住宅。手前は集会所。
(宮城県多賀城市 2011年7月24日) [クリックで拡大]
仮設住宅団地管理

仮設住宅団地の管理方法は、住民による自治、外部のNPOとの連携、専門の管理会社による委託事業など、各自治体や仮設住宅団地によって異なっている。

【宮城県仙台市】国の緊急雇用対策の助成を活用し、市内の一般社団法人「パーソナルサポートセンター」との協働で、6月中旬から一部の仮設住宅の見守り事業を行っている。被災者雇用枠で採用した「絆支援員」という見守り担当と「暮らし再生プランナー」というリーダーが組み、訪問活動を行う。また仮設住宅団地内に「ふれあいサロン」を開設し、喫茶を振る舞いながら住民とコミュニケーションをとっている。(2011/05/30 河北新報)

【宮城県多賀城市】仮設住宅の管理を大手集合住宅・寮メンテナンス会社に委託しており、集会所に複数の管理人が常駐している。日常的に管理業務や警備、各戸を訪問しての安否確認や健康調査、新生活の立ち上げ支援、住民ニーズの吸い上げなどを行ったり、ボランティアなど支援活動の受け入れ窓口を担っている。

【宮城県岩沼市】7月1日より県内では初めてとなる「里の杜サポートセンター」を総合福祉センター内に開設し、仮設入居者の日常生活を包括的に支援している。センターは、総合的な相談の受け付けや孤立防止ための交流拠点としての役割を担う。運営は社団法人青年海外協力協会(JOCA)と提携し、海外活動経験のあるスタッフが派遣され生活支援員として活動している。

仮設団地管理:北上モデル

【岩手県北上市】北上市は県の緊急雇用創出事業を活用し、被災した大船渡市の仮設住宅運営支援を行うための事業を実施している。この事業は、仮設住宅団地で生じるさまざまな問題を、市のコミュニティ運営ノウハウを活用して支援活動をするというものだ。全体の運営を北上市のNPOが担い、民間の人材派遣会社が労務管理を担当。その下で地元でマネージャーや支援員を緊急雇用した。(2011年10月4日 みちのく仕事)

仮設住宅団地毎に支援員を配置し、常駐して集会所を管理している。そこでは仮設住宅の運営補助や環境整備改善、住民への声かけと相談受付、行政やボランティア支援団体などとの連絡調整などを行っている。

またこれとは別の場所にコールセンターを設置し、すべての仮設住宅住民からの相談や情報をその1ヶ所に集約させて対応。これにより課題やニーズの集計や仮設ごとの傾向などをデータベース化し、全体のマネジメントに反映させているという。[k5]

    仮設住宅団地 集会所

陸前高田
陸前高田 滝の里仮設団地 集会所 (岩手県陸前高田市 2011年7月17日) [クリックで拡大]
国府多賀城駅南地区応急仮設住宅の集会所(宮城県多賀城市
国府多賀城駅南地区応急仮設住宅 集会所 (宮城県多賀城市 2011年7月24日) [クリックで拡大]
蛇田中央公園応急仮設住宅
蛇田中央公園応急仮設住宅 集会所
(宮城県石巻市・蛇田地区 2011年7月21日) [クリックで拡大]
向陽町住宅地区応急仮設住宅の集会所
向陽町住宅地区応急仮設住宅 集会所
(宮城県石巻市・蛇田地区 2011年7月21日) [クリックで拡大]
亘理町中央公民館南広場応急仮設住宅(通称:旧舘仮設) (宮城県亘理町 2012年3月3日)
亘理町中央公民館南広場応急仮設住宅(通称:旧舘仮設) (宮城県亘理町 2012年3月3日)
亘理町公共ゾーン応急仮設住宅
亘理町公共ゾーン応急仮設住宅の第3集会所 [558戸]
ここは規模が大きい団地なので、集会所が3ヶ所ある。内部もとても広い。
(宮城県亘理町・亘理町字西郷地内 2011年12月4日) [クリックで拡大]
亘理町公共ゾーン
亘理町公共ゾーン 仮設 第3集会所。NPOの支援によって設置された図書室
(宮城県亘理町・亘理町字西郷地内 2011年12月4日) [クリックで拡大]

    仮設住宅団地・自治会

【宮城県石巻市】石巻市の仮設には、抽選によって広い市内各地域から当選した住民が入居してきた。しかしそれをまとめる仮設住宅団地の自治会は結成されず、管理人がいないためにせっかく設けられた集会所も鍵が掛けられたままとなり、住民自身の利用すらも制限されていた。

そうした住民の不満や要望を受け、石巻市は市内の50戸以上の仮設住宅団地内に、自治会組織を立ち上げることを決定した。

仮設渡波第一団地では、2011年8月7日に自治会組織立ち上げ準備委員会を設立。9月18日に石巻市内で初めてとなる自治会が発足した。(2011/9/14 石巻かほく、2011/9/19 石巻日日新聞)

#石巻かほく(三陸河北新報社)によると、石巻市内の最も早い仮設住宅自治会の結成は、8月28日発足の鮎川小グラウンド仮設住宅ともある。(2011/10/15 石巻かほく)

【宮城県東松島市】2011年8月10日、石巻地方で初となる仮設住宅団地の自治会組織「矢本運動公園仮設住宅西コミュニティー」が、矢本運動公園仮設住宅で設立された。(2011/8/12 石巻かほく)

自治会組織率

朝日新聞社が、2011年10月時点において被災東北3県(岩手、宮城、福島)の仮設住宅団地のある一部の市町村(計828団地)を調べたところ、全体の自治会組織率は62%だった。

岩手県陸前高田市や宮城県七ヶ浜町、名取市、福島県田村市、飯舘村は、組織率100%。陸前高田市の場合は、入居者説明会の際に会長や棟ごとの班長を選んでもらったという。

一方、岩手県宮古市は42%、宮城県石巻市は36%、福島県南相馬市は65%だった。(2011/10/12 朝日新聞)

仮設自治連合会

2011年12月、宮城県石巻市内の仮設住宅団地の5つの自治会が参加して「石巻仮設自治連合会」が発足した。各自治会が抱える課題などを話し合い悩みを共有したり、行政との窓口を一本化する目的などがあるという。(2011/12/11 河北新報)

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    仮設住宅の生活用品の支給

蛇田中央公園応急仮設住宅(宮城県石巻市・蛇田地区
日本赤十字によって配布された生活家電セット
(宮城県石巻市・蛇田中央公園仮設 2011年7月21日) [クリックで拡大]
蛇田中央公園応急仮設住宅(宮城県石巻市・蛇田地区
日本赤十字によって配布された生活家電セット
(宮城県石巻市・蛇田中央公園仮設 2011年7月21日) [クリックで拡大]

日赤の生活家電セット寄贈事業

日本赤十字社により、生活に必要な家電セットが仮設住宅の被災世帯に贈られている。これは海外の各赤十字社から寄せられた義援金を財源にしたもので、仮設住宅世帯のみならず、同様の扱いである公営住宅や民間賃貸住宅などの一時使用、みなし仮設住宅の世帯にも各自治体の判断により設置された。なおこれらは寄贈されたものなので、仮設住宅退去時にもそのまま贈られる。

  • 生活家電セット内容 

  • 洗濯機(全自動 7kg程度)
  • テレビ(32型程度 テレビ台を含む)
  • 冷蔵庫(290L程度)
  • 炊飯器(5.5合炊き程度)
  • 電子レンジ(500W程度)
  • 電気ポット(2L程度)

#日本赤十字社

生活必需品の支給

「照明器具、ガスコンロ、カーテン、エアコン」が、仮設住宅の付属品として設置されている。これらは仮設住宅退去時には返却しなければならない。

仙台市を例に採ると「寝具、食器類、調理用具」などの生活必需品が、全世帯に支給される。この他、内容については各自治体や入居時期、仮設住宅団地によりそれぞれ異なる。

石巻市のある仮設住宅団地では、入居時に日赤生活家電セットに加えて、生活必需品が「73点」も支給されたという。寝具から食器まで、ありとあらゆるものが4人分の各4セットもあり、新しく購入しなければならないようなものは、ほぼ無いほどだった。ちなみに、これは入居前から各戸にセットされての一律の支給であり、世帯人数を考慮しての支給ではなかったため、例えば独り暮らしの単身世帯の場合は、残りの3セットが余ってしまっていたという。

なお同じ石巻市内でも、仮設住宅団地によって事情は異なる。前述の仮設住宅団地から、ほんの数百メートルしか離れていない別の仮設住宅団地では、支給された生活必需品は73点もなく、品数もずっと少ないものだったという。仮設住宅の建設時期、入居日時によって異なっているようだ。

    仮設住宅の住環境改善

亘理町公共ゾーン応急仮設住宅
遅れている断熱化工事が急ピッチで進む。亘理町公共ゾーン応急仮設住宅 [558戸]
(宮城県亘理町・亘理町字西郷地内 2011年12月4日) [クリックで拡大]

    応急仮設住宅への支援活動

陸前高田市高田町長砂仮設団地(岩手県陸前高田市・岩手県立高田高等学校第2グラウンド
陸前高田市高田町長砂仮設団地・岩手県立高田高等学校第2グラウンド
岩手県遠野市からやってきたボランティアが、全国から集めた物資を配布する。
(岩手県陸前高田市 2011年7月17日) [クリックで拡大]
陸前高田
陸前高田 滝の里仮設団地で開設した
SVA「いわてを走る移動図書館プロジェクト」(岩手県陸前高田市 2011年7月17日) [クリックで拡大]
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