◉震災発レポート
大道芸人ギリヤーク尼ヶ崎
「慰霊の舞」
〜御霊と対峙する空間を共有〜
神戸市長田区菅原通 ◉ 2002年1月17日
Text & Photos by kin
2011.1 up
人知れず慰霊の舞が始まる
それは唐突だった。震災直後の火災により全焼した地域である神戸市長田区菅原通地区は、倒壊と焼失により多くの建物と命が失われた場所である。復興まちづくりが長引き長く更地とプレハブの風景のままだったが、区画整理が決定し本建築が建ち始めたところだった。そんな震災から7年目の17日昼過ぎ、唐突に大道芸人のギリヤーク尼ヶ崎氏が現れる。そしていまだ更地となったままの一画で、静かに慰霊の舞を始めた。
ギリヤーク尼ヶ崎氏が舞を披露しようと考えたときに、相談した地元の人に紹介されたのがこの場所だったという。今では完全な住宅地となっているが、まさに多くの人が亡くなったのがこの場所である。映画『男はつらいよ』の寅さんロケが行われたのも、ほんの1、2百メートル先だった。こうした適度な広さの公園や更地も少なくなったこともあったかもしれない。
見守っているギャラリーは、ごく数名のファンや私のようにたまたま通りがかった人、そして近所の人という数名のみだった。氏のいつもの公演のように数百名が何十にも取り巻く光景とは趣きもだいぶ異なっていた。だがそれでも氏にとってはかまわないのかもしれない。魅せる、というよりもあくまで氏の内面の中において犠牲者の御霊と向き合い、舞を捧げて慰霊する空間を共にするといったものなのだろう。
舞はしだいに激しくなっていく。長い髪を振り乱し、地面を転げ回り、バケツの水を被りそのまま走って一画を一周する。荒々しくなった動きも、やがて静かに終熄していった。短い時間ではあったが、そこにたくさんのエネルギーを注いで懸命に向き合っていた姿が印象的だった。
岩波書店
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◉データ
ギリヤーク尼ヶ崎氏「慰霊の舞」
開催日:2002年1月17日
場所:神戸市長田区菅原通