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◉まち・コミレポート

震災学習  震災を伝える意味 ❷
〜御蔵地区修学旅行生受け入れ〜

神戸市長田区御蔵通 ◉ 2005年3月1日

Text & Photos by 加藤洋一

初出『月刊まち・コミ』

2011.1  up
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修学旅行生への震災学習 炊き出し体験(神戸市長田区御蔵通・御蔵北公園 2005年3月1日)
修学旅行生への震災学習。炊き出し体験の様子(神戸市長田区御蔵通 2005年)
Photo:まち・コミュニケーション

修学旅行受入に関わる課題

既述した震災体験学習プログラムは、受入の始まりである日比野中学校の修学旅行から基本的に変わっていない。しかしながら、受入側、学校側、双方の意識には変化が見られる。一番大きな影響はやはり、近年の受入件数の増加である。

はじめは震災を学びたいという子ども達がいることに対し、それならばと住民が手作りで行ってきた活動であった。しかしながら年間の受入回数の増加はボランティアで動く住民にとっては非常に大きな負担となってきている。

修学旅行にはシーズン(春は5・6月、秋は10・11月に集中する)があり、多いときには一週間に3〜4件もの受入に対応しなければならないときもある。そうなると人手の必要な炊き出し体験等に破綻をきたさないよう、半ば義務的にシフトを組んで対処しなければならない。旅行社を介すことが増えたことによる影響もある。2002年度までは「神戸まちづくり研究所」を繋いで学校側の依頼を経てから、双方で話し合いながら当日のプログラム作成を行っていた。

しかし「神戸ながたコンベンション協議会」設立以降は、上記のように幾つかのプログラムを用意(というよりも日比野中学修学旅行受入のスケジュールを個別のプログラムに分割したという方が正しい)し、選択してもらうという形になった。

しかし、「スライドショー」で「震災の教訓から助け合いの精神が生まれた」という前提があるからこそ「まち歩き」や「炊き出し体験」で伝えられることもあり、費用と時間だけでシステマティックに決められたプログラムでは、本当の学習ができないという問題がある。

上記した問題は、学校の担当教諭が下見に訪れたときに説明することで解決することは可能である。しかしながら極めて少数ではあるが、被災地を修学旅行のスケジュールを消化できる「お手軽な体験場」として考えている学校もあるようだ。学校側が旅行社まかせで、具体的には「生徒を2時間あずけておける場所」のように使われてしまう件もある。「震災について学びたい」という意志を持たない生徒たちを相手にするのは非常に難しく、ましてボランティアで関わる語り部にとっては疲労が溜まる一方である。

住民・生徒双方にとって実のある体験学習とするためにも、修学旅行受入の窓口であるまち・コミに、事前のコーディネートを丁寧にすることが求められている。

伝えるということ

住民のいうように御蔵のまちに一目でわかる震災の傷跡というものはほとんど残っていない。「地震の恐ろしさ」を学ぶという点でいえば、「人と防災未来センター」の地震発生当時を再現した映像等のアトラクションにかなうべくもない。防災や避難についてのマニュアルは既に作られているだろう。先述したように修学旅行の受入には大きなリスクを抱える場合もある。それならば御蔵では何を伝えることができるのか。伝え続ける意味はあるのか。

御蔵という復興まちづくりの現場でできることは、「震災を学ぶ」ことではなく「震災に学ぶ」ことである。震災を伝えることで「未来の被災者」を救う可能性は大きいし、それに少しでも貢献したいという御蔵の住民の気持ちも大きいだろう。

しかし、実際に被災を経験した人の話は、地に足のついた生活に基づくものであり、そこから喚起されるのは聞き手の「想像力」である。数字にでることのない他人の立場を想像し、共感できる力は、子ども達の将来にとってきっと何らかの形で役に立つことだろう。またもう一つ言えることは、修学旅行生に語ることは、住民にとっても震災を忘れないためのツールになっているということである。

一方で「地震のことはもう思い出したくない」という人もいる。また「伝えたい」というよりも聞いてもらうことで癒される人もいる。そういう意味では「何を伝えるべきか」の答えはまだ出ていないのかも知れない。

震災から10年間継続して住民主体によるまちづくりを進めているこの地域にあっても、震災とその後の助け合いの記憶の風化が進んでいるように思う。自分のまちやそこに住む人々を意識できるコミュニティ創設のためのまちづくりは、むしろこれからの課題として残されている。

[了]

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◉初出誌
『月刊まち・コミ』2005年3月号(阪神・淡路大震災まち支援グループ まち・コミュニケーション発行 2005年3月1日)掲載を再録。
◎ 元記事リンク:『月刊まち・コミ』バックナンバー
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。

◉まち・コミ・震災体験学習リンク
◉震災学習リンク

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Text & Photos 加藤 洋一

まち・コミュニケーションスタッフ。1979年生まれ、愛知県出身。大学院まで建築や生活環境論等を学び、インターンシップで御蔵のまち・コミを訪れた。これをきっかけにスタッフとして参加し、長く御蔵のまちづくりに関わった。

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修学旅行生への震災学習(神戸市長田区御蔵通・御蔵北公園 2005年3月1日)
震災モニュメントの説明を受ける
(長田区・御蔵北公園) 2005年
修学旅行生の震災まち歩き(神戸市長田区御蔵通・御蔵北公園 2005年3月1日)
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修学旅行生への震災学習(神戸市長田区御蔵通・御蔵北公園 2005年3月1日)
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