◉震災発レポート
防災大臣と新潟県知事が語る❷
人をつなぐ、ネットワークをつなぐ
東京都千代田区・九段会館大ホール ◉ 2010年5月15日
—いま、地域を考える— 記念講演『地域と防災』
鼎談「どうすすめるか、これからの地域防災」
中井洽/泉田裕彦/古賀伸明/司会:中川和之
text by kin
2011.1 up
「どうすすめるか、これからの地域防災」をテーマとした、国と行政と労組のトップが顔を合わせるという貴重な鼎談が行われた。鼎談の3名は、中井洽防災担当大臣/国家公安委員会委員長、泉田裕彦新潟県知事、古賀伸明連合会長である。司会は震災以来、災害や災害ボランティアについて積極的に取り組む時事通信の中川和之氏である。
新たなネットワークを生み出す——古賀連合会長
初めに話が振られたのは、昨秋に新しく連合会長となったばかりの古賀会長である。古賀氏は阪神・淡路大震災当時、大阪在住で労組の書記長を務めていたという。個人的な被害はなかったが、当時は連合として被災者支援で神戸に入り、ボランティア活動を支援した。その後連合内では、ボランティア・サポートチームが作られ、それは東京災害ボランティアネットワークの結成にもつながっていった。
そうした経験を積み重ね、三宅島噴火災害や中越地震などでもチームとして支援活動を行ってきた。こうしてボランティアで地域に入るということは、新たなネットワークを生み出すことにつながる。またそうしたネットワークが、次の地域防災活動に役立っていく。こうした労組によるボランティアの特徴としては、その数や継続性、機動力、専門性、ネットワークなどが挙げられるという。
その時、内閣の対応——中井防災大臣
続いてこちらも、昨秋に政権交代した民主党鳩山政権時に任命された中井大臣。防災担当としては、今年は1月のハイチ地震に国際緊急援助隊の派遣、そして2月末のチリ地震に伴う津波対応などが続いた。三陸沿岸などは昔の津波に基づいた9mのハザードマップが作成されているが、避難勧告にもかかわらず避難が徹底されなかった所もあった。政府災害対策本部もすぐに動いたが、そこにITを活用しきれなかった教訓もあったという。また今回の津波では海産加工物に被害が多く出たが、被害額の95%の補填が行えるようにしたいということだった。
新潟地震の記録はなかった——泉田新潟県知事
2名の話を受けて、基調講演から引き続き参加の泉田新潟県知事が続いた。被災地にやってきた県外の災害ボランティアをいかにコーディネートして、ニーズとマッチングさせるかということの問題提起。被災した当事者である行政でも地元住民でもできないことをやってくれる。その重要性は高まっているが、初めての被災地にはその受け入れ態勢が決められていないことが現状である。今後は誰がそれを担っていくのか。それは連合ボランティアのような所かもしれないし、防災士かもしれない。
災害の記憶を伝えて残していくということも重要だ。新潟県の場合も、中越地震の際に参考にしようと過去に起きた昭和39年の新潟地震の記録を探したという。どのような被害がありどのような問題が発生し、行政内部ではどのように対応して動いていったのか。しかし当時の記録が、全く残っていなかったという。災害は多くは自治体にとって初体験のことだ。自治体として何をすべきかという役割があるが、新潟地震当時にどう動いたかなどの情報の伝達ができず、教訓を受け継ぐことができなかった。
だがその中越地震の際には、兵庫県の井戸知事が阪神・淡路大震災時の経験で役立つこともあるだろうからと、すぐに県の職員を派遣してくれたという。そのお返しは、能登半島地震が起こった際に新潟県から石川県に職員を派遣する形で、新潟の経験を次の被災地に伝えることでつなげていったという。
災害復旧事業予算の財政支援のありかたとは
中井大臣からは、災害時の財政支援のやり方についての提案が話された。現在の災害復旧事業の予算は、事業分野別でそれぞれの省庁にまたがっているが、それぞれが縦割りの予算となっているために個別に財務省が査定しているという。市町村の要望を県が査定し、それを各省庁が別々に査定、そして財務省が査定する。段階や制約が多く自由に使えずかえってムダや弊害も多い。こうした縦ではなく国からの一括交付金のようにして支援を行い、現場の自治体が使途を決められるように横串の制度をつくりたいと考えており、政権内にも働きかけているところだという。
またこうした復旧事業の予算も、あくまで原状回復に限られているのが現状だ。例えば阪神・淡路大震災の際、被災した港やコンテナバースをより大きな貨物や輸送船に対応できるように造り替え、より多くの国際競争力に応じられるようなものにしたいと考えたがそれが不可能であり、古い基準のままに復旧することしかできなかった。結果的にそれが港の国際的需要低下として響いてきた面もあったという。こうした不合理な面をなくし、予算をより柔軟なものとして使えるようなものにしていきたいという。これには泉田知事も賛成で、災害復旧予算はとにかく予算の査定が長く、使途も枠が決まっており自由度が少ないと語っていた。
阪神・淡路大震災、そしてそれ以降に発生した災害で多くの地域が様々な経験と教訓を得て、共有していくことが可能となっていった。ハザードマップの活用や防災教育、被災体験の伝達などでは、成功した面もあるがまだ不十分な面もある。「人をつなぐ、ネットワークをつないでいく」ということが、今後も重要となっていくことだろう。それは政府、行政、経済界、労働者、市民、それぞれにも通じることである。
[了]
小学館
山古志は、わたしたちの、「心」のなかの「ふるさと」
忘れかけていた風景
ふるさとへの郷愁と愛惜
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。
◉データ
全労済協会統合5周年記念 希望のもてる社会づくり
—いま、地域を考える— 記念講演『地域と防災』
開催日:2010年5月15日
場所:東京都千代田区 九段会館ホール
主催:全労済協会(財団法人全国勤労者福祉・共済振興協会)
▶講演「大規模災害にどうやって備えるか?二度の地震の経験から?」
◎泉田裕彦
▶鼎談「どうすすめるか、これからの地域防災」
◎中井洽/泉田裕彦/古賀伸明/〈司会〉中川和之
◉参加講師
中井洽氏(国家公安委員会委員長、内閣府特命担当大臣・防災担当、
拉致問題担当大臣、中央防災会議委員)
泉田裕彦氏(新潟県知事、中央防災会議委員)
古賀伸明氏(日本労働組合総連合会〈連合〉会長)
中川和之氏(時事通信社「防災リスクマネジメントWEB」編集長)