◉震災発レポート
走る走る、いわてを走る!
SVA移動図書館プロジェクト 陸高篇 ❶
〜東日本大震災の光景〜
岩手県陸前高田市 ◉ 2011年7月17日
東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)
text & photos by kin
2011.8.30 up
《1》プロローグ◉SVAが岩手で活動開始
SVAの活動に参加することに
突然の話だったが、初めて岩手県の被災地に入る事になった。場所は内陸部の遠野である。花巻までは観光で訪れたことがあったが、日本民話のふりさとと言われる遠野は初めてだった。阪神・淡路大震災後の神戸でも一緒に活動していた公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA・東京都新宿区)が新たに拠点を設け、沿岸部の支援活動を行うということで、当時の仲間からそのスタートダッシュを支援しに行こうとの誘われたのだった。
SVAは主にタイやラオス、カンボジアなどやアフガニスタンといったアジアの国々で、子どもたちの教育・文化支援活動を行っている国際NGOである。そのSVAも1995年の阪神・淡路大震災以降は、国内外の災害復興支援活動も行っていた。今回の東日本大震災でもその直後より被災地に入り、宮城県気仙沼市に拠点を設け精力的に活動を行ってきた。
そして震災から3ヶ月後の6月に岩手県遠野市にも新たに岩手事務所を開設し、同県の大槌町や陸前高田市などの岩手三陸沿岸へ支援をするべく準備を進めていた。岩手事務所では7月中旬より「いわてを走る移動図書館プロジェクト」という図書館事業を行う予定だった。今回の目的は、その立ち上げ準備と現場への巡回活動を手伝うことだった。
そもそもSVAとの接点は、阪神・淡路大震災当時に長田区の御蔵通にはボランティア団体の事務所が集まって形作られていた「ボランティア村」でお隣さんだったことがきっかけにある。同じ敷地内のプレハブ同士だから、慰霊法要や祭りなどの地域活動の際には協働で活動をすることもあった。現在も続く阪神・淡路大震災みすが地区ろうそく法要は、その仲間内での活動がきっかけだったりもする。
そうした関わりで当時の仲間とはその後もゆるいつながりが続いていた。そんな縁が間を取り持ち、今回当時の神戸ボランティア経験者何名かが奇しくも遠野に集まることとなった。考えてみると、直接SVAの活動に直接参加するのは初めてだった。
日本民話のふるさと遠野に拠点を開設
SVA岩手事務所があるのは、岩手県遠野市。遠野駅は東北新幹線「新花巻駅」からJR釜石線でちょうど1時間の場所にある。遠野は地理的にも広い岩手の中心とも言われており、内陸の花巻や沿岸の釜石、さらには県庁所在地の盛岡といった岩手の街からほぼ等距離の位置にあり、昔から交通の要所だったという。そのため海産物や山の幸といった物だけでなく人や文化の交流も盛んで、そうした土壌もあって「遠野物語」で有名な民話も育まれてきたそうだ。
SVAの事務所開設にあたっては当初被災した岩手県三陸沿岸部でも拠点を探したが、壊滅状態のために適当な場所が見つからず、結果この離れた遠野が選ばれたという。被災現場からは少し離れてしまったが、一方で空港や新幹線の駅のある花巻からは比較的近くなった事で交通の便は格段に良くなった。遠野駅からは東京とを結ぶ直通の深夜高速バスも運行されている。遠野の若者は盛岡や仙台に行くよりも、高速バスを使って東京と行き来をするというのが地元の人の弁だ。
そうしたこともあってか、他にも「遠野まごころネット」や「かながわ 東日本大震災ボランティアステーション遠野センター」「ALL311ボランティア遠野拠点」などといった各種の民間・専門団体、さらには自衛隊、警察、消防、医療などの救援部隊など250を越す様々な組織や団体が、この遠野を三陸沿岸部の被災地支援の一大拠点拠点として活動を展開していた。(参考・2011年8月16日 河北新報)
市内を貫く花巻と三陸を結ぶバイパス沿いには、巨大スーパーやDIYホームセンター、電気量販店、100円ショップなど並び物資補給にも不足ない。通信、ライフラインなども問題はなく、近くには温泉まである。
《2》プロローグ◉遠野に降り立った
まるで民宿のようなSVA岩手の事務所
遠野駅を降りると、いたるところにシンボルの河童を目にした。観光物産店のレジでは「カッパ捕獲許可証」(一年間有効)も販売している。駅構内には「まごころネット」へ向かうボランティアのために、その拠点への行き方案内チラシもあった。
駅からSVA岩手事務所へは車で10分弱ほどの距離だったが、せっかくなので歩いて向かうことにする。住宅地やバイパス沿いや畑の脇をゆっくり歩き、45分くらいでなんとか迷わずに到着した。
事務所は四方を畑に囲まれた静かな場所にあった。小さな縫製工場の一角を借り切ったそうだ。その現在使われてない工場の広いスペースは図書館用の書庫となっており、整然と並んだ本棚には全国から寄せられた本がギッシリと所狭しと並んでいた。
1階は書庫と事務所が、2階には広い和室と台所や洗面所がある。和室の窓から一面の畑を眺めていると、ちょっとした民宿かユースホステルのような、あるいは田舎の親戚の家に来たかのような雰囲気が漂った。布団も洗濯機もテレビもあり、ボランティアの拠点としては快適過ぎるほどだ。
今回のプロジェクトの助っ人メンバーである神戸ボランティア経験者組も来遠し集結。、翌日からの作業に向けて、SVA岩手事務所のスタッフを交えての打合せが行われた。
現地責任者の古賀さんは、前職が出版編集者だそうだ。また現地採用スタッフの田中さんは大槌町の被災者でもあり、これまで教員や図書館事務をされてきたのだという。共に本の扱いには慣れている方々だった。その一方で今回のような被災地での被災者支援活動やイベント準備の実践経験は少ないということで、我々神戸ボラ・チームはそうした部分をサポートする役割を担っていく事になる。
移動図書館プロジェクトとは?
この「いわてを走る移動図書館プロジェクト」とは、文字通り津波で壊滅的被害をうけた三陸沿岸地域を、本を積んで巡るというプロジェクトである。この沿岸地域一帯は津波で被災して壊滅状態となり、現在は図書館も本屋もない状態だ。特に陸前高田市などは施設や蔵書が浸水で被災しただけでなく、図書館のスタッフと移動図書館車運転手も含めて全員が犠牲になってしまったという悲劇的な状況にあった。当然、施設や蔵書の復旧も全く目処が立っていない。
そこでSVAは、以前よりアジアでの活動実績を積んでいた「図書館プロジェクト」の経験を生かした支援活動を行うことにした。現地を視察して地元を巡り、自治体や地域の区長とも協議を重ねた末、入居が始まったばかりの応急仮設住宅団地を巡ることに決定する。そしてこの週末に陸前高田市内の4ヶ所を訪問するのを皮切りに、翌週末以降は大船渡市、大槌町、山田町の仮設住宅を順次、隔週間隔で巡回していく予定となっていた。
現在までの蔵書は、新古書店全国チェーンのブックオフなどから新古本の絵本や児童書を、そして出版社からは新刊本の文庫本やマンガ単行本の寄贈を受けて5千冊ほどもの幅広い種類の本が集まっている。その中から移動図書館車には、500冊ほどを積んで行く。
その初回となる今回積む500冊の内訳は、まだ手探り状態にあった。まだお客さんの仮設住宅住民とは一度も顔を合わせていないで、年齢構成や嗜好傾向が判然としないので想定が難しい。試しとして絵本や児童書、マンガ、文庫本、一般書をそれぞれ1/4ずつ乗せていくことにする。
しかし肝心の本を運ぶ「移動図書館車」の手配が、まだ間に合っていなかった。マイクロバスに本棚を積んだのような専用車を手配しているのだが、その納車までにはまだ1、2ヶ月は掛かる予定だという。それまでは軽トラの荷台に本を積んで、代替作業をする方針だった。
そこで明日の我々神戸組の作業は、まずはその軽トラの"プチ"改造の方針を検討・作業をしていくこととなった。
《3》プロローグ◉準備作業で、早くもバテる
炎天下での準備
山あいにある遠野の夜は夏とは言えクーラーいらずで涼しすぎるくらいだったが、翌朝も快晴で午前中から30度以上となる炎天下となった。前日の打合せでこのプロジェクト全体の輪郭はだいたい把握できた。活動前日となるこの日は、まる1日がその準備作業に当てられる。
今のところ被災地の現場を全く見ていないので、実際の活動場所での様子は想像になってしまう部分も多い。しかしこれまでも同じようなことは散々やってきたので、想定と実際にそう大きな齟齬は生じないはずだとの確信はあった。とりあえずは想定できることを全て準備し、万全の体制で臨むことにする。
青空の下、事務所前の駐車場での作業が始まった。神戸ボラチームのリーダー通称・コウジローがここでも中心となって動く。彼は軽トラに積む予定の荷物や備品を実際に目の当たりにして、当初の目論みだった荷台に本棚や本を積んだコンテナをバラバラに積み込むやり方ではなく、荷台に直接本を並べた本棚を据え付けて運んでしまおうとの提案を出した。なるほど、これだと現地に到着してもシートを取るだけですぐに開設することができる。
その軽トラック改造を前に、まずは必要な備品を購入しに近くのホームセンターに行く。軽トラの荷台を覆うシートが業務用だと1万円以上もすることにはびっくりした。ついでにこの周辺では、どこの店でも売り切れとなっていた扇風機が数台残っていたので、事務所用に数台確保する。
被災県ということもあり、店内はヘルメットや長靴、鉄板入り中敷き、防塵マスクなどの被災地支援作業用の各種ボランティアグッズが目立つ。またコバエ対策用の防虫薬品も特設コーナーが設けられて積まれている。ご当地グルメの遠野ジンギスカン用品のコーナーがあるのは、この地域ならではだろう。
会場設営のリハーサル
この車両改造作業と同時並行して、タープや机、幟を組み立てるなどの移動図書館の会場設営リハーサルを進めていく。仮設住宅団地での図書館開館時間は1時間余りで、加えて各仮設住宅団地間の移動時間は最短で30分しかないキチキチのスケジュールだ。しかもその30分間には移動だけでなく開設と撤収の時間も含んでいるのだ。また明日の初回は助っ人スタッフの数も多いのだが、毎回スタッフの数が揃うとは限らず、次回以降は最少で4人のスタッフで運営することもありえるらしい。
そうしたことを見越していくと、会場設営には4人でも無理なくかつ素早く開設できるように考えておかなくてはならない。だが急ぐあまり無理をしたり焦ったりしてもいけない。ボランティアの作業で焦ったりすると余裕がなくなることで、ケガや体調不良、また利用者である被災者との応対がおろそかになる原因ともなってしまう。常に周りも自分も余裕を持って客観的に見えるような状態においていおくことが、こうした活動のコツなのだ。こうして会場設営のリハーサルで、時間を計りながら何度も開設と撤収を練習を繰り返していった。
思いのほかの完成度
炎天下での試行錯誤の結果、本棚を据え付けた軽トラックの完成度はSVA岩手スタッフが当初想い描いていた以上の出来映えとなったようでとても喜んでくれている。さすがは神戸ボラ時代からこうした大工作業の得意なコウジローの仕事だと改めて感心した。
さっそくSVAスタッフは、完成した軽トラの写真をFacebookページにアップしている。まだ移動図書館活動は始まってもいないが、こうしてWEBやSNSを通じて情報発信をすることで、SVAを支援する個人やお寺さん、協力してくれた企業などにプロジェクトの進捗を逐一伝えていく。
軽トラ本棚とタープの下に机を並べて実際に店を展開してみると、このまま外でバーベキューをしたいくらいの良い感じの雰囲気を醸し出している。まるで屋台村のようだ。こうして実際の形を目の前にしてみるとどんどんイメージも膨らんでくる。ここにすだれや風鈴も加えたらもっと良い感じになりそうだ。すぐ近くに100円ショップがあるのでこういう急な思いつきには助かる。いよいよ翌日に迫った第一回目となる初回が愉しみとなってきた。
たかが準備作業だったが炎天下の作業は過酷だった。油断して日焼けした部分が軽いやけどのように真っ赤に腫れた人もいる。常に水分を採り休憩しながらの作業となったが、準備は万全に整った。あとは翌日の本番を待つだけだ。
ついにスタート
翌7月17日、「いわてを走る移動図書館プロジェクト」がいよいよスタートした。この日はSVAスタッフが3名、神戸ボラ組が4名、長野県松本市から来たSVA支援者組が4名の計11名というチームで回る。SVA支援者組は、SVAの活動を支援しているお寺の住職さんの奥さんと、その子どもの女子大生という組み合わせである。それぞれ4台の車に分乗し、1時間半ほど掛かる現場を目指して出発した。
[続く]
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。
◉データ
いわてを走る移動図書館プロジェクト
主催:公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 岩手事務所(略称:SVA)
開始日:2011年7月17日
場所:岩手県 陸前高田市、大船渡市、大槌町、山田町
各地域の仮設住宅団地を隔週巡回。
後援:陸前高田市教育委員会、大船渡市、大船渡市教育委員会、
岩手県立図書館、社団法人日本図書館協会
協力:3.11絵本プロジェクトいわて
- 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会
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