◉震災発レポート
走る走る、いわてを走る!
SVA移動図書館プロジェクト 陸高篇 ❻
〜東日本大震災の光景〜
岩手県陸前高田市・モビリア仮設 ◉ 2011年7月17日
東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)
text & photos by kin
2011.8.30 up
《8》陸前高田◉「仮設市街地」としての団地
モビリア仮設
会場の撤収をわずか4分54秒1で終え、最後の図書館開設場所である陸前高田市小友町獺沢仮設団地(60戸/オートキャンプ場モビリア/5月28日完成)へと向かった。このオートキャンプ場モビリアの仮設は、その前の広田小仮設と同じ広田半島にあり、直線距離でも2.5kmほどしか離れていない距離にある。
モビリアの駐車場奥あった元々がテントサイトだった場所に建設されたものだが、他にも元々設備が整っているオートキャンプサイトにも1戸単位の仮設住宅(陸前高田市小友町獺沢第2仮設団地/108戸/7月29日完成)が建設されていた。こうしてモビリア全体が被災者向けの施設となったために、現在では一般のキャンプ施設としての営業は行っていない。
このキャンプ場の本部棟はトイレやカフェが併設された広い建物で、今は情報交換の場や集会所的な交流のためのスペースとなっていた。ボランティアの弁護士による相談も行われているようだ。またここには、新潟中越大震災や新潟県中越沖地震の支援を行ってきた新潟県の復興支援ボランティアが支援に入っているようで、そのスタッフの常駐拠点ともなっている。
仮設にスーパーが出店
ライフラインは整っているし支援の手も他には見られないほどに充実しているが、旧市街地からは遠く離れた山の中であり、車がないとどこにも移動ができないのが厳しい点かもしれない。近隣にあった商店なども被災したために、買い物にはとても不便な場所だ。そこでここには6月10日からスーパーマーケットのイオンが、臨時店舗「イオンスーパーセンターモビリア出張販売所」を出店していた。もともと物産店などの売店があったのだろうか、常設の店舗棟をまるまる一棟と仮設プレハブにテントを数張とで幅広く店を広げていた。
通常の店舗と同じく毎日配送されており、生鮮食料品から加工食品、酒などの嗜好品から、日用品、衣料品などホームセンターにあるようなものまで、品揃えは普通のスーパーと同じ感じだ。しかも値段もコンビニのような定価販売ではなく、夕方のタイムセールもあるお買い得価格である。また家電、収納用品、ホームケア商品やおもちゃなども注文して母店のイオンから取り寄せができるという。さらにはここをベースにして、他の仮設住宅団地への移動販売車による巡回販売も行うという。
またこの日は店頭にタピオカドリンクの移動販売車も営業。駐車場には千葉県警の移動交番車も駐まっていたり、他の時間帯には他県警がパトロールで巡回していた。まさに仮設団地というよりは、一つの仮設市街地を形成しているのだった。このように仮設住宅団地の敷地内で、ここまで生活環境が整った所は、過去にも現在でも他にはないのではないだろうか。(神戸のポーアイ仮設には、コープ神戸の仮設店舗があったか。でも衣類やDIY系までの品揃えは無かったような気がする)
幅広い世代の住民が来館
軽トラの移動図書館車をイオン横のステージ脇の木陰に駐める。すぐに準備に取りかかるが、もう4回目ともなるとスタッフの動きもスムーズである。タープ一張を出して、4分45秒で開店準備を整えることができた。この場所は仮設住宅の入り口で、かつイオンの横ということで人の流れがある。そのため開店するとすぐに、のぼりにつられて人も集まって来た。来られた方々にとりあえずお茶やジュースでお接待をして、ゆっくりと本を選んでも貰う。
立ち寄った世代も幅広く、子どもたちからおばあちゃんたち、若い夫婦や奥さん仲間たちが交えている。しかしこれはこれまでの仮設との違いというよりも、初回だから移動図書館の存在がまだ周知されていなかったという要素が大きいのかもしれない。それとスーパーが隣接しているという立地もあり、外に出る条件が必然として存在していることもあるだろう。また暑かった気温や時間帯の関係も影響しているのかもしれない。
皆さんいずれも本棚を前にしてじっくりと結構な時間を掛け、借りたい本を吟味していた。文庫コーナーにいたおばあちゃんたちと話をしてみると、特にミステリーものが好みだとかで、次回はこのジャンルをさらに充実させて欲しいとのリクエストも貰った。奥さん方が料理のレシピ本を見ているのも目に付く。あまり外に出る楽しみも少ない仮設生活の中では、家で料理することも楽しみの一つなのだという。レシピ本はこれまでの開設場所でも借りている方が何人かいたが、こうしたジャンルも案外人気があったことは新たな発見だった。
団地内を一回りしてみると一番奥には柵があり、その下は木の茂みに被われた崖になっていた。しかしその崖の木をよく見ていると、柵と同じ高さの梢にゴミとテレビアンテナが絡まっている。津波がこの高さまで遡上したというその遡上痕のようだった。ここからは木々に遮られて海は全く見えないが、直線距離では200mほどしかなく、崖の数十m下はもうすぐに海なのだ。これを見ると、この仮設住宅の建つ高さもぎりぎりなのだということを実感する。
好評のうちにモビリア仮設での図書館開設は終了した。7分52秒8で撤収を終え、ふたたび1時間半を掛けて遠野まで戻る。暑さで予想外にも相当の体力を消費したが、この図書館プロジェクトの手応えをどこの仮設住宅でも実感ができたことは、大きな収穫であり心地よい疲れだった。
《9》エピローグ◉実感した図書館プロジェクトの手応え
移動図書館はSVA的傾聴活動である
どこの仮設住宅を訪れても、この図書館プロジェクトの手応えを実感することができた。やはりメインとなる「本を届ける」という部分が、予測の通り被災者に求められていたことをしっかりと確認できたのは収穫だった。本を見に来る住民の男女や世代も幅広く、区別は問わず受け入れることができた。ただ今回は高齢の男性が少なかったようにも感じられたのは残念だったが、それも回を重ねていくことで、解消されていくことだろう。
物資を持って行ったりするのは誰でもできるが、こうして本を管理しながら定期的に巡回するという図書館プロジェクトは、どこの団体もが簡単にできるものではない。SVAのように過去のノウハウを蓄積していたり、本を集めるコーディネート力があったり、現地に大きなバックヤードやボランティアたちが安心して滞在できる宿泊施設を整えたりという、目立たない下地がそこには必要なのである。
被災地で不足し求められている部分とSVAの得意な部分が、うまく合致することが出来た例だと思う。SVAスタッフの話では、リクエストされた本はできるだけ応じ、協力会社や組織を通じて入手していきたいとのことだったが、被災地で書店が復興していった場合には、そうした店から本を購入していくことも考えているそうだ。
そして移動図書館は、ただ本を運ぶだけではなかった。図書館を利用して「場」を提供するという「意味」も大きく実感することになる。仮設の一画にタープを張り、机と椅子と飲み物を出して、人に集って貰う。そこで子どもたちはおもちゃで遊んだり絵を描いたり、ただおしゃべりをしてたりする。お父さん方も奥さん方も、取りあえず椅子に座って住民同士でたわいもない世間話や、我々スタッフたちには津波で被災した当時の状況を教えてくれたりした。
タープを出してすだれを出してという空間の雰囲気も、場づくりとしては良い環境を提供できたのではないか。仮設の集会所よりも空調の面などでは不利ではあったが、誰もが訪ねやすい解放区のような開放感は生み出すことができた。これは学生による足湯ボランティア活動や僧侶による傾聴ボランティア活動と同じような空間を、図書館というツールを用いて生み出すことができたのだと実感できた。まさに傾聴ボランティア活動でもあったのだと思う。
バックヤードでの管理業務も被災地支援活動
この移動図書館の活動日の翌日は、遠野のSVA岩手事務所のバックヤードで管理作業を行った。5千冊以上が集まっている書庫だが、まだまだ登録やシール貼りなどの管理作業が終わっていないのだ。まずはPCを使って蔵書管理データベースへの登録作業を行った。
ちなみにこのPCはパナソニック神戸から供与を受けたLet's noteで、神戸工場から来たものらしい。「16年前の"ありがとう"を今…届けたい みんなで頑張ろう!! 日本!!」というメッセージが天板に貼ってあり、同じものがPCを起動したときにも表示されるという芸の細かさだった。さすがに新品同様に整備されたもので、動きも軽快だ。直接被災者の方がこうしたメッセージに接することは少ないと思うが、こうしたボランティアが使う機器への協力も必要不可欠なものであり、そうした理解と行動には感謝をしたい。
まずはISBNのバーコードを読み取ってDB登録していくのだが、新古本の多い絵本や児童書にはバーコードがなかったりISBNも添付されていなかったりするので、ネット経由で検索したり手入力をしていったりする。DB登録済みの本には、管理コードの入ったバーコードラベルや蔵書ラベルを一つ一つ貼っていく。こうした地味な事務作業を倉庫にこもって半日以上やったが、この一場面だけを切り取ると、この遠野は被災地ではないし、東京でやってもどこでやっても同じ普通の図書館でもやるような作業である。しかしこの地道な作業も、被災地支援活動の不可欠な一片なのだ。
例えば初めて被災地支援ボランティアに関わるような人が、こうした作業だけを淡々と続けるのは手応えもなく逆に辛くなってくるだろう。被災地支援に関わる人は、一回は現地を見ておくべきだと思う。現地を見たり人と話すことによって、自分の行動や作業が現場とリンクしていくことだろう。そして被災地支援のためには、同じようにその前の段階での準備や、さらに遠く離れた東京や大阪などからの支援が不可欠であることを再認識させられる。現場の活動は、広い支援によって支えられているのだ。
[了]
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。
◉データ
いわてを走る移動図書館プロジェクト
主催:公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 岩手事務所(略称:SVA)
開始日:2011年7月17日
場所:岩手県 陸前高田市、大船渡市、大槌町、山田町
各地域の仮設住宅団地を隔週巡回。
後援:陸前高田市教育委員会、大船渡市、大船渡市教育委員会、
岩手県立図書館、社団法人日本図書館協会
協力:3.11絵本プロジェクトいわて
- 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会
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