◉震災発レポート
走る走る、いわてを走る!
SVA移動図書館プロジェクト 陸高篇 ❺
〜東日本大震災の光景〜
岩手県陸前高田市・広田小仮設 ◉ 2011年7月17日
東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)
text & photos by kin
2011.8.30 up
《7》陸前高田◉ケーキイベントには負けたが、それもOK
広田小仮設
陸前高田市広田町大久保仮設団地(66戸/陸前高田市立広田小学校グラウンド/5月12日完成)に到着。広田半島の広田湾とは反対側の大野湾に面しており、学校から望める高台にある。
ここは標高が高い為に被害はなかったが、市の中心部からも孤立し、長らく地域住人の避難所となっていたところだった。現在は校内の避難所は解消されている。1階に設置されていた広田地区災害対策本部も部屋のスペースはそのまま残されており、今でも休憩や事務所として使われているというが、組織としては解消している。
この小学校のすぐ下の場所まで、津波は押し寄せた。その海辺にあって被災した中学校は使えなくなったため、広田小には中学も同居している。その校内に一時は避難所のスペースも設けられ、校庭には仮設住宅も建設された。そんなこともあり、いまでも校内が地域や仮設住宅の集会所としての機能や、支援イベントの受け入れの機能を担っているようだ。
地元スタッフの静かなる存在感
広田小仮設に到着すると、敷地の中程に入った辺りの木の覆い茂る木陰に車を停めた。日陰なので、タープは設置しないでも大丈夫だろう。その手間も省けたこともあり、今回の会場設営時間は、4分54秒1とさらに記録を更新した。
素早く図書館を開設することはできたが、周囲には住民の姿があまり見当たらない。どうやら挨拶を交わした仮設の地区会長さんの話によると、ちょうどこの時間に広田小の校内で、愛知から来たパティシエによるケーキ作りと音楽ライヴのイベントが行われているという話だった。タイミングが悪いが、そうであれば当然子どもたちはケーキイベントに行くだろう。しかしそんな中でも友達同士や姉弟の子どもたちが何組かのぞきに来た。絵本やマンガを薦めると、じっくりと長い時間をかけて品定めをしている。結局姉弟は、それぞれ3冊ずつ目一杯借りていた。「ケーキを作っているみたいだよ」とイベントに行かないのか訊いてみたが、どうやらケーキよりも読書の方が好きなようだった。
奥さん方は、ミステリーや料理レシピ本に関心があるようだった。隣町の大槌町在住スタッフの田中さんが、そんな奥さん達に声を掛ける。本を薦める会話も、いつの間にか同じ被災者同士の会話になっていた。現在の生活の状況や津波襲来時の話などを、土地の言葉で同じ目線で話している。
何気ない風景だったが、こうしてお互いに壁のない空気で接するということは、外から支援に来た人や組織には、最初からはなかなかできないものである。外から来る者は、よそ者であることが自明であるが故の越えられない一線は避けられない。しかしそこに加わった田中さんのような地元スタッフの存在は、外部支援を導く船頭でもあり地元住民との潤滑油ともなり得る重要な位置にいるのだと、今一度実感した瞬間だった。かと言っても、田中さんは特別なことをする必要もない。もしかしたら、住民さんたちと意識しての会話をすることもないかもしれない。地元スタッフがいる、という状況そのものが、支援スタッフにも住民さんにも大切なのだろうと思う。
支援の拠点となっていた広田小
広田小学校の校舎のほうに行ってみる。1階の玄関付近の教室から、音楽の演奏が聞こえてきた。ケーキ作りとライブのイベントで、名古屋から来たパティシエの柴田武さんと東京のBlue Trikeというバンドによるミクスチャー・イベントだった。
まず校内に入ると、全国から贈られてきたという励ましのメッセージの色紙やタペストリーが玄関付近に所狭しと飾れた光景が眼に入ってきた。昔のガンダム好きにはたまらない大河原邦夫氏や安彦良和氏が広田小宛に贈ったものもあり、びっくり。
そんなメッセージコーナーのすぐ横で、イベントは行われていた。仮設住宅では見なかったたくさんの子どもたちや親御さんは、やはりここにいたのだった。教室の中央で大きなショートケーキをパティシエが作っており、それを囲んでみんなが見守っている。それを前にしてライブが行われるという、いったいお客はどこを見ればいいのかという視覚的にも聴覚的にもとても賑やかな光景だった。
後に調べてみると、この広田小には少し前にも、東京の在日イタリア人による支援組織"ITALIANS FOR TOHOKU"(イタリアンズ・フォー・東北)もやってきて、イタリアンの炊き出しや物資配布を行っていたということも判った。この場所は陸前高田市の中心部よりもさらに半島を中程まで進んだ奥まった所に位置する。それ故に津波で浸水したために直後の数日間は陸の孤島と化してしまったのだが、その後はこうした所にまで支援の手が伸びている現状に驚かされた。
[続く]
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。
◉データ
いわてを走る移動図書館プロジェクト
主催:公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 岩手事務所(略称:SVA)
開始日:2011年7月17日
場所:岩手県 陸前高田市、大船渡市、大槌町、山田町
各地域の仮設住宅団地を隔週巡回。
後援:陸前高田市教育委員会、大船渡市、大船渡市教育委員会、
岩手県立図書館、社団法人日本図書館協会
協力:3.11絵本プロジェクトいわて
- 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会
- いわてを走る移動図書館プロジェクトニュースリリース - SVA
- いわてを走る移動図書館プロジェクト - SVA
- 地球に笑顔のタネをまく課長のブログ - SVA
- 東日本大震災 復興支援プログラム 本を売って被災地の移動図書館を応援しよう - ブックオフオンライン
- [2011/08/23]本を売って被災地の移動図書館を応援しよう - ブックオフオンライン スタッフブログ
- yamamoto.lab - 明治大学理工学部山本俊哉研究室:陸前高田市の被災前写真(渡辺雅史氏撮影)、支援活動、調査
- [2011/07/18]3.11から今日までのバースデー - パティシエ 柴田武ブログ
- [2011/07/22]被災地に祈りを。by Kiyohito[Kiyohito] - Blue Trike official blog 青い三輪車の旅
- [2011/05/31]東日本大震災ルポ・被災地を歩く:児童、生徒、避難住民が共存する小学校——陸前高田市(3) - ITmedia
- Italians For Tohoku - Facebook
- 東北復興支援 在日イタリア人の会 - 在日イタリア商工会議所 (Camera di Commercio Italiana in Giappone)
- 東日本大震災復興支援に関する当社の活動 - (株)エムエスジャパンサービス