◉震災発レポート
走る走る、いわてを走る!
SVA移動図書館プロジェクト 陸高篇 ❸
〜東日本大震災の光景〜
岩手県陸前高田市・滝の里仮設 ◉ 2011年7月17日
東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)
text & photos by kin
2011.8.30 up
《5》陸前高田◉最初の仮設に到着
滝の里仮設
海岸部の被災した市街地を離れ、坂を登って丘の上を進む。その結構上がった所に開けた草の生え茂る空き地では、少年野球の練習が行われていた。その向かいに一ヶ所目の移動図書館開設地である陸前高田市竹駒町滝の里仮設団地(86戸/滝の里工業団地北側市有地/5月28日完成)があった。
団地の入り口脇にあるプレハブの集会所では、何かイベントが行われているようだった。民謡のような歌謡曲のような音楽が外にも漏れており、曲に合わせて踊りの練習が行われている模様。団地の自治会長さんに訊きその集会所の脇に図書館を開設することにした。
本を積んだ軽トラを駐めて店開きの準備に取り掛かる。11人のメンバーのうち前日に練習した通り4人が中心となって作業を行い、残りの人たちには他の細々とした軽作業をしてもらう。最初なので緊張感もあるが、変にあせって急いだりしてのケガには禁物だ。あくまでも慌てず淡々とこなしていく。
まずは軽トラ荷台のシートを剥がし荷物を降ろす。タープを2張り立て、その中に折りたたみ机と椅子を広げ、ボックスに入った絵本を置いていく。車や周囲には何本か幟を立てて派手にして目立たせる。お接待用に冷えたお茶やジュースをクーラーボックスから取り出す。タープの端には100円ショップで急遽入手したすだれと風鈴を吊してみた。試行錯誤しながらの設営で掛かった時間は15分13秒2。ちょっと掛かりすぎだが、最初はこんなものだろう。10時を回り、いよいよ移動図書館のオープンである。
いよいよ開店
無事に開店したは良いものの、すぐにはなかなかお客さんが来ない。事前に団地の掲示板に案内を掲示したり、各戸にもチラシも入れて告知はしたとは言うが、認知されていくのにはまだまだじっくりと時間が必要だろう。猛烈な暑さのせいもあるのか、基本的には今のところ外を歩いている人影すらあまり見かけない。特に用事がない限りは炎天下を外に出るのも禁物なのは確かだ。この暑さでは何をやってるのかと覗いてみる気力も出ないのは仕方がないだろう。
そう言えばよく移動販売車が来た際には、音楽を鳴らしたりマイクで呼びかけたりして開店の合図をしている。店の側に立ってみると改めてそういうことに気付かされる。家の中に居ても来たことがわかるようなそんな仕掛けも必要なのかもしれない。準備も済んで手も空いたこともあり、仮設の間をチラシを持って声を出しながら呼び込みをしてひと回りしてみる。
仮設住宅の脇には大きな黄色いタンクが並んでいた。こんな施設は神戸では見たことがない。何かと思い洗濯物を干していた方に尋ねると、これは下水処理を行う浄化水槽だとのこと。もともとこの周辺は市街地ではない。津波の被害の及ばない高台に仮設住宅を建てようと用地を探してみても、宅地として上下水道が完備された条件の整った土地はなかなかないのだろう。そのために仮設住宅団地を整備しようとする際には、住宅の建屋だけでなくこのような関連施設も同時に併設しなければならないのだ。
読みたい本は十人十色
猛烈な炎天下の中、ひるまず水鉄砲をして遊んでいた小学生がいた。子どもたちを誘うと、冷たいジュースを片手にテーブルで絵本を広げたり、画用紙に色鉛筆で絵を描いたりしてなんとなく愉しんでくれている。そんな彼女彼らに神戸ボラ・メンバーの通称「ムンムン」が懸命に話しかけてコミュニケーションを図っている。
学校で好きな人いるの? AKB48で誰が好きなの? 最近は何が流行っているの?
例えAKB48やアイドルの名前が出てきたとしても、最近のタレントがみんな同じに見えてしまう我々には、一つも話を合わせることが出来ないのだが、ムンムンはひるまずにどんどんと話し続けている。シャイな子も多いが、話し続けていくうちに、なんとなく会話が生まれたりもしてくる。
こんなやり取りを傍らで眺めていると、こんな感じでうまく子どもの相手ができるような人材やスキルも、こうした活動には必要なのかもしれないと思わされた。
子どもだからと言っても、みんなが絵本やマンガが好きだとは限らない。文庫本コーナーで「時代小説は無いの?」と聞いてくる高学年の子がいる。かといって、子どもと一緒に訪れた若いお母さんは、マンガ本を吟味している。
来てくれた奥さん方に要望を訊いてみると、いくつか雑誌や週刊誌などのリクエストも出てきた。周辺は図書館も本屋も、コンビニもなくなってしまったのだから、週刊誌を買うこともすらも困難になってしまったのだ。また別の奥さんからは、『テンペスト』本のリクエストがあった。『テンペスト』とは、NHK BSテレビで始まる仲間由紀恵主演の琉球時代劇ドラマの原作小説の事だった。やはり最新の小説も読みたい。よく考えればこうした要望は普通の本屋さんや図書館の場合とも何ら変わらない。被災したのは普通の街なのだから当然だ。
SVAはこれまで書店や出版社からたくさんの寄贈を受けてきたが、今後はこうしたリクエストも受けていき、書庫に無い場合は地元書店で購入して応えていくつもりだという。
初回の開設で感じた手応え
それにしてもいくら陽を避けてタープの中に居たとしても、仮設住宅の影に入っていても、炎天下の屋外は猛烈に暑い。タープにすだれと風鈴を吊り下げておいて本当に大正解だったと思う。すだれによって日陰の面積も"気持ち"増え、風鈴の音も涼しさを演出してくれる。
この場所に到着してもまだ30分ほどしか経っていないというのに、ただ立っているだけでもこの温く漂いまとわりつく空気に体も厳しくなってきた。スタッフの我々も10分に一回くらいの早め早めのペースで、クーラーボックスで冷やしたお茶やスポーツドリンクを飲んでいくことにする。そして自分だけではなく、他のスタッフも飲み忘れていないかをお互いに注意合っていこうと確認。
1時間の移動図書館の開設時間が終了した。初回の来場者は10数人ほどで、借りられた方も10人弱くらいだっただろうか。借りた本は、次回2週間後に再び訪問した際に返却するシステムだ。図書館とは言え、普通の図書館のように個人情報を登録して管理するような厳密さまではしておらず、名前と借りる本のタイトルをメモする程度のゆるい記録である。来館するお客さんは少なかったものの、これからもこれを繰り返し続けていくことで、クチコミやリピーターが増えていくことを期待したい。
例え本は借りずとも、いろんなおしゃべりをする「場」が作れたことは一つの収穫でもあった。移動図書館プロジェクトは一義的には図書の貸し出しが事業目的ではあるが、同時にこれはコミュニケーションを取るための手段でもある。極端なことを言えば、本が一冊も借りられなくとも多くの住民が集う「場」となれば、それはそれで良いのだという。
[続く]
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。
◉データ
いわてを走る移動図書館プロジェクト
主催:公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 岩手事務所(略称:SVA)
開始日:2011年7月17日
場所:岩手県 陸前高田市、大船渡市、大槌町、山田町
各地域の仮設住宅団地を隔週巡回。
後援:陸前高田市教育委員会、大船渡市、大船渡市教育委員会、
岩手県立図書館、社団法人日本図書館協会
協力:3.11絵本プロジェクトいわて
- 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会
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